令和タクシー日記

初日

初日はバタバタしている間に終わった。機器の使用法もよくわからない。客の拾い方、ナビの使い方もよくわからない。結局、本当なら、千円程度で行けるところを遠回りしてしまって会社にクレームが入った。大田区なんぞ、行ったことがない。さらにナビの性能も極めて悪い。一方通行だらけの道をぐるぐる回ってしまい3000円を超える金額になってしまった。乗っているのが私でも怒る。結果的にクレームが入り、2400円は自己負担。それでも6万円を超える売り上げだった。運転手の取り分は60%なので、36000円マイナス2400円は稼いだ。

2日目

これは、災難ばかり、午前中に自損事故を起こした。事務所に帰ってそのまま、その日は運転をやめるつもりだったが、代わりの自動車に乗れ、という。勇気を出して出かけたが、再び自損事故、西口、新宿のローターを逆走した挙句、料金の高さを指摘されて、慌てて、左ドアをガードレールに擦る。その後も営業を続けたが、やる気は失せまくり、4万円強の売り上げで深夜を迎えた。

3日目

この仕事は、私に向いていない、と会社に告げた。ところが、叱責を受けるどころか、励まされる始末、やめる気満々でいたが、人間は弱い。最初は誰でもそんなもんだ、という物分かりのいいセリフにまんまと乗っかり、おまけに手みあげまで持たされた。奥さんに顛末を話すと、罵声を浴びた。それはそうだ。私はADHDの可能性が極めて高い。ものを書いたり、考えて企画書にまとめたり、その手の仕事は自分でも天才的だと思う。ただし、単純労働、それも作業を伴う単純労働は極めて苦手だ。

4日目

どうでもいい気分で出かけた。ともかく、サボる。サボりながら、無理しない。ひと組、客を乗せると、エンジンをつけたまま、表に出て、タバコを吸うようにした。さらに夕飯はチェーンの中華料理屋できちんと食べた。するとだいぶ楽になった。それでも6万円を少しだけ超える売り上げで、事故もなく、帰社できた。

、不思議なもので、次々と客が乗り込む。ノルマらしきものは5万円だが、乗客拒否はできないため、こんなところで、客が来るわけない、と思っていても、客が降りると、次の客に呼び止められる。その連続で、6万円を超えてしまった。新しい仕事で、あまり、サボるタイプではない。ぶっ器用なので、結構、真面目に働いてしまう。少しだけだが、単純労働の快感も感じてしまった。