診断士とタクシー

親父は、63歳の時に、お袋の弟に騙されて、保証人になり、弟(私の叔父)が、突然、失踪、数千万円の保証債務を負い、自己破産した。当時、私は、それなりに稼いでいた。さらに仕事柄、交渉力は、一般の人より、高く、弁護士の力を借りずに自己破産手続きを私が行い、無事、免責となった。住んでいた茨城の土地件自宅も私が、安価で買い戻し、以降、私の経済的援助とお袋のパート収入、さらにはサラリーマン時代の年金で、のんびり暮らし、73歳で死んだ。

葬式も墓も私が負担した。
親父は、30代から零細企業の経営者、プライドだけは高かった。一時は、警備員として、働こうと思ったらしいが、人間関係から、わずか、1ヶ月で、逃げ出した。
それ以来、私に頼った生活を続けた。
私も同じようなもの、親父と同じ年齢で、仕事上のトラブルにあい、仕事が激減した。ただ、私は息子に頼る気持ちはない。時代の違いもあるが、息子は超大企業に勤めて、それなりに苦労している。
こうして、私はタクシーの運転手になった。親父より、根性があるので、自分の仕事(有限会社)を続けながら、週二日、タクシーに乗っている。年齢も含めてタクシーしか、時間が自由になる仕事はなかった。
自分の人生を振り返って、泣きたくなることもあるが、妻にこれ以上苦労させたくない。
客の奴隷である運転手の仕事にもいくらか、慣れてきた。売り上げも平均を超えている。
 
生きるということは、結構、大変だ。タクシーがいくらか、落ち着いてきたので、本業の中小企業診断士の仕事に力を入れる余裕も出てきそうだ。
 
人生何とかなる。もうダメだ、と思った時から修行が始まる。

刺青を見せつける若者

昨日は、もう帰ろうと思って深夜2時、新宿通りの歌舞伎町近くに停まっていた。たくさんのタクシーが列をなして停まっている。すると前方から、半袖Tシャツから刺青をはみ出した若者が歩いてきて、私のタクシーに声をかける。乗ってもいいですか?、すぐにドアを開けた。

少し嫌だったが、言葉使いは丁寧だ。乗ってからも池袋まで、行っていただけますか?できるだけ早くて安いコースで、と話す。新宿から池袋は、どの道を行っても時間も料金もそう変わらない。明治通りを進むコースを進めた。

車内でも極めて、丁寧な態度、池袋東口に着いて、ドアを開けると、とても良い感じでありがとうございました、と言って、終電が終わった駅方向に進んで行った。

人は見かけで判断できない。たちが悪いタワーマンションに住んでいる30代くらいの男や女は、だいたい、傲慢で失礼だ。

刺青を見せびらかす若者の人格を真剣に考えた。

 

あさ、7時に出庫する時は相変わらず、ウンザリする。本来の私の仕事ではない。ただ、次々と客をこなし、売り上げがある程度見えてくると、さらに売上をとろうという姿勢に、最近、なっている。昨日の売り上げは8万5千円、これだと手取りが、20時間で5万円弱になる。人間は金に弱い。

多分、こうしてタクシー運転手にハマっていく人が多い気がする。客あしらいは、慣れれば、どうということはない(私にとっては)。慣れたふりをしてこなすか、文句を言う客には、経験が浅いので、と謝れば、最後は客は、ありがとう、と降りていく。日本人は、本質的に気がいいのだ。

さらに時間が自由なので、行きたいところに行ける。私の定番の休憩場所は、日比谷公園の周り、タクシーや業務関係の自動車が公園沿いにいつでも列を成して駐停車している。本来、駐停車禁止の道だが、警察は、習慣を優先して、取り締まっていない。さらに都心のど真ん中の公園なので、駐停車に文句をつける住民も存在しない。

藤の花が見事に咲いていた。

 

タクシー会社の超高速健康診断

いいのか、悪いのかわからないが、タクシー運転手には一定の健康が求められる。とは言っても平均年齢は68歳、健康なわけがない。私は64歳だが、叩けば埃の出る身体、尿酸値、高血圧と常備薬なしで、戦っている。もう数十年飲んでいる精神安定剤ソラナックス、これは常備薬に近い。ただ、心療内科に言わせるとおまじないみたいな薬だともいう。そういえば、飲まなければ、飲まなくて済んでしまう。とくに忙しく仕事をしている時は、飲み忘れて、どうということもない。

所属するタクシー会社で、半強制の健康診断が実施された。運転手は200人以上いる。それを2日間、午前中のみで済ませる。だからと言って、コースはフルコースだ。検便、検尿、心電図検査、聴覚、視覚、血液検査、問診、胸部レントゲン、血圧までやって、私の場合、かかった時間は35分弱、どんな結果になるかはお楽しみだが、多分、問題があっても表沙汰にはならない。

健康診断とは、そのくらい、いい加減なのだ。あるいは、いい加減でもいいのだ。費用は会社負担、推測するに、注意喚起くらいはあっても、それで終わりだろう。私は、ごく若い頃から、血尿の傾向がある。それを2週間入院して、調べても原因不明、体質的にそうゆう人もいるので、治療は必要ない、でここまで来ている。(30年近く)。

 

すごい世界だ。でも一方、それが正しい気もする。完全な人間などいないのだ。スポーツマンで、健康だった親友が、突然、ある病気の進行性患者として、高額な治療を受けている(パーキンソン病?)。従兄弟は41歳で亡くなった。父は73歳で突然の膵臓癌で亡くなった。九州の友人、親友の弟はアルコール依存からくる多臓器不全で、40歳代で亡くなった。一方、私の母は、認知症で、要介護4でさらに肺がんを宣告されて、施設で元気に過ごしている。

健康は成り行きに任せるしかない。神様が決めることだ。人間や医者が決めることではない気がする。大量のタバコを吸い、お酒を飲みながら、心からそう思う。

 

げそ天そば

なぜか、食べるチャンスを失う。みのがさのげそ天そば、何度も店舗前を通っている。客が乗っていたり、無線で呼ばれていたり、最近はやっと食べられると、暖簾をくぐりそうになったところで、二人のにいちゃんに呼び止められた。店舗の前にはタクシーが止まっている。私の車ではない。私の車は、少し奥まったところに止まっている。新宿まで行ってくれ、という。断るわけにはいかない。私の車まで誘導して、新宿まで乗せた。

みのがさのげそ天そばへの想いは募るばかりだ。

 

犯罪天国我が国

泥酔

 
深夜、日本橋近くで、手を挙げる男を拾った。最初は気づかなかったが、よく見ると靴を履いていない。さらにシャツはボタンを開けっぱなし、ズボンのチャックも開いている。サラリーマンらしいが上着もネクタイもしていない。最初は、まともで、酔いながらも、西新井まで、いってほしい、という。
途中で不安になってきて、声をかけた。熟睡しているようで反応はない。私のタクシーの隣にたまたま、パトカーが並んだ。交番に行くか、迷っていたところだったので、パトカーに声をかけ、止まってもらった。お巡りさんが、数人、客に声をかけ、起こして、金があるかどうか、確認した。どうやら財布は持っているようだ。このお巡りさんはタチが悪く、靴を履いていないような人間をなぜ乗せたのか、と逆に私を責める姿勢だ。
そんなこと、車の中から見えるはずがない。乗せて、初めて分かったのである。行き先を聞いた限りは、連れて行かないと、契約違反だ、とまでいう。お巡りさんが来たことで、客は一瞬、正気を取り戻したようで、私に謝る。金を持っていることが分かったので、西新井まで運搬した。途中でドアは開けるは、叫ぶは、その度に、怒鳴りつけた。
いよいよ、西新井に着くと今度は財布がない、と言い出す。お巡りさんが来た時、明らかに財布の所在は私も確認している。ドアを勝手に開けた時、落としたか、捨てたか、したのではないか、と疑った。しばらく探させて、やむを得ず、私は後部座席を点検した。するとドアとソファの間に財布が落ちている。
クレジットカードで、決済、彼は、裸足で、自分の部屋に帰っていった。
 
一体、彼に何があったのであろう。財布を見つけて、決済するまで、彼は私に謝り続ける。飲んでいなければ、多分、好青年だ。推測するに、上司か、同僚か、後輩かに無理やり飲まされ、放置されたのだ。
あの状態は、死んでもしょうがない。私が財布を奪っても理解できない。
酒は犯罪を呼ぶ。お巡りは、そんなことに興味がない。深夜、泥酔者を乗せるたびに日本の平和を思い、危険さを思う。過酷な環境に暮らす異国人にとっては、日本は犯罪天国だ。

友情は泥酔を見捨てる

神田あたりで、二人連れのサラリーマンを乗せた。一人は冷静、一人は泥酔状態で歩けない。まあ、冷静な一人がいればいいか、と乗せた。すると、時間を気にした冷静君は、上野まで行ってくれという。これはやばい。念の為、冷静君の名刺をもらった。もし、泥酔君が問題を起こしたら、警察に電話せざるを得ないので、その前に冷静君に電話する、という約束だった。
泥酔君の行き先は松戸、ゴーペイ決済で事前に料金は冷静君が払っていたので、松戸までタクシーを走らせた。案の定、泥酔君は目的地に着いても意識不明、後部のドアを開けて、降車を促したが、スニーカーは、両足脱いで、バッグもほっぽらかし、すると頭から、歩道に直撃状態で、転倒、冷静君に電話をしても当然の如く、留守番電話、迷わず、110番した。その間、後部座席で休むように言ったが、身体のコントロールが効かないようだ。警察が来る直前には歩道に大の字で横たわっていた。
警察到着、それでも身体のコントロール不能、先ほど、転倒した頭部には血が滲んでいる。警官は、困った様子で、6人がかり、最後は、警官が救急車を呼んだ。
そこまで、同席して、警官の許可を得て、私は立ち去った。1時間程度、稼ぎどきを無駄にした。名刺を置いていった冷静友達君はあまりに無責任だ。こうなることはわかっていたはず、泥酔君を私に押し付けて、逃げたのだ。名刺は警官に渡してしまったが、外資系のIT関連大手だった。私が若い頃も友人に泥酔君(今は税理士)がいたが、仲間で最後まで面倒を見た。最低でもカプセルホテルに放り込んだ。
人間関係が儚くなっている。私は天使ではないので、110番を躊躇いなくするのだよ。