タクシー日記 雑記

客にはいくつかのパターンがある。怒りまくる人は、まだ許せる。年齢を問わず、会社員風の人は人数が多くてもそれなりの常識がある。酔っていてもそれなりに弁えている。若い女性もほとんどおとなしい。ただ、明らかにキャバ嬢と思われる複数女性を乗せるとあからさまに下ネタを大声で喋り、触らせたの、やる、だのやらせないだの、会話の品は極めて下劣だ。
最も嫌なのは、調子に乗った酔っぱらいの低学歴若者だ。多分、肉体労働か、サービス業もどきだろう。4人で乗り込み、助手席にデブが座る。大声で笑い、誰彼なく文句を垂れる。私の運転に対しても大声で、文句を言う。挙げ句の果てに絡み始める。独り言のように私は呟いた。最近の東京都のタクシーは、室内も含めて全て、録画、録音されているんです。だから、お客さんに失礼なことはできないんです。デブ若者は、いきなり、黙ってしまった。
プライバシー保護の観点からも、人材面からも200台近いタクシーの全てのビデオ情報をチェックしているわけではない。3日程度で、記録は消される。事故、犯罪絡みのトラブル、詐欺、無賃乗車があった場合だけ、運転手の申告によりチェックされる。
私は、喧嘩早い。普段なら、許さない態度でもお金を払ってもらっているゆえ、運転手の職業の一環として、無視、あるいは我慢する。また、長くても30分程度の辛抱だ。次の客が乗り込む頃には、怒りも忘れてしまう。
希薄な人間関係、客は、運転手に人格があるとは思っていない。私の教えていた人の中には、銀行の支店長から国土交通省の課長、大学教授、さらには医者もいた。中小企業診断士の勉強は、一定の知的レベルがある人には、とても面白く感じる領域が幅広く含まれている。心理学、経営学、財務論、経済学、商品学、さらには労務管理の基本、情報管理学など、ホワイトカラーに必要と思われる知識が網羅されている。その先生を10年以上、続けていた。凝り性の私は、できる限り、原則的な本を読むようにしていた。私自身人格的に優れているとは思っていないが、人並み以上に教養も経験もあるつもりだ。
それが、運転手という底辺に近いパターンに押し込められる。別にことさら、ストイックなわけではない。むしろ、快楽主義に近く、好きなことは、制限なくやってきたつもりだ。ただ、立場を変えると、本来の自分に「磨き」がかかるような気がする。
タクシーの運転手は、それなりに楽しい気になってきた。