犯罪天国我が国

泥酔

 
深夜、日本橋近くで、手を挙げる男を拾った。最初は気づかなかったが、よく見ると靴を履いていない。さらにシャツはボタンを開けっぱなし、ズボンのチャックも開いている。サラリーマンらしいが上着もネクタイもしていない。最初は、まともで、酔いながらも、西新井まで、いってほしい、という。
途中で不安になってきて、声をかけた。熟睡しているようで反応はない。私のタクシーの隣にたまたま、パトカーが並んだ。交番に行くか、迷っていたところだったので、パトカーに声をかけ、止まってもらった。お巡りさんが、数人、客に声をかけ、起こして、金があるかどうか、確認した。どうやら財布は持っているようだ。このお巡りさんはタチが悪く、靴を履いていないような人間をなぜ乗せたのか、と逆に私を責める姿勢だ。
そんなこと、車の中から見えるはずがない。乗せて、初めて分かったのである。行き先を聞いた限りは、連れて行かないと、契約違反だ、とまでいう。お巡りさんが来たことで、客は一瞬、正気を取り戻したようで、私に謝る。金を持っていることが分かったので、西新井まで運搬した。途中でドアは開けるは、叫ぶは、その度に、怒鳴りつけた。
いよいよ、西新井に着くと今度は財布がない、と言い出す。お巡りさんが来た時、明らかに財布の所在は私も確認している。ドアを勝手に開けた時、落としたか、捨てたか、したのではないか、と疑った。しばらく探させて、やむを得ず、私は後部座席を点検した。するとドアとソファの間に財布が落ちている。
クレジットカードで、決済、彼は、裸足で、自分の部屋に帰っていった。
 
一体、彼に何があったのであろう。財布を見つけて、決済するまで、彼は私に謝り続ける。飲んでいなければ、多分、好青年だ。推測するに、上司か、同僚か、後輩かに無理やり飲まされ、放置されたのだ。
あの状態は、死んでもしょうがない。私が財布を奪っても理解できない。
酒は犯罪を呼ぶ。お巡りは、そんなことに興味がない。深夜、泥酔者を乗せるたびに日本の平和を思い、危険さを思う。過酷な環境に暮らす異国人にとっては、日本は犯罪天国だ。