タクシー運転手の事務仕事

私、35年以上にわたって、個人経営、有限会社社長、株式会社代表取締役、経営顧問、執行役員しか、やったことがない。タクシー実務の難しさに戸惑っているだけではなく20時間労働後に課される納金作業(その日の営業実績と現金を検証し、機械に納金する)にも未だに悩まされている。

35年以上、単純な事務作業は、アシスタントに任せていた。私はクライアントの管理と全体の業務計画の作成と実践、アソシエイトやアシスタントに対する指導、つまり、大枠の組み立て(例えばエクセルの設計)はやっていても、実際に電卓を使って、計算をする、という経験はなかった。さらに前職は、記者、編集者である。単純な数字とは無縁だった。

20時間の過酷な肉体労働のあと、単純な計算ができない。計算の根拠は誰も教えてくれない。書面の納金シートとコンピュータの納金仕分けが、そもそも異なっている。納金管理の会社側の意図は、不正入金の防止と不正労働の防止に集約されているため、その論理性は関係ないのだ。したがって、やりかたは、人によってバラバラ、売り上げとクレジット等の多様な売り上げ高を管理し、足りない分を現金として納めさせることに完全にとどまっている。

これが私の体質に合わない。先輩達は、どう考えても肝を押さえたうえで、適当にやっている。私にはその適当ができない。だんだん肝はわかってきたが、どうにも納得がいかない部分が残る。私はバカではない。したがって作業の意味を分かろうとしてしまう。

タクシー実務でも同様、私は接客指導を専門にしていた時期もある。それを実践している。ただし、私は接客指導するとき、不条理な客は相手にしなくていい、という哲学が原則だった。タクシー接客には、そうした常識、論理性はない。哲学なんぞ、かけらもない。クレームが入らなければ、あるいは、その言い訳ができれば、接客哲学など、いらいないのだ。

月額30万円以下の仕事はやらない、ことを自慢にしてきた私が、300円のチップ、500円のチップにうれしくなっている。

昨日も「普段4000円で行く」というルートをナビに従って行ったところ4700円になってしまった。さっそく、終業後、営業部長に呼び出され、訳を聞かれた。正直にナビに従っただけだ、というと客が納得しない金額は請求できないため、自己負担してください、と丁寧に下出に出た態度で言われた。言い訳は聞かない。「まあ、始めたばかりの授業料だと思って数百円を負担してください」という。そういわれたら素人同然の私は

反論の余地がない。

 

批判ではない。こうゆう世界が世の中にある、という勉強は、最終的に私にとってプラスになる。頭でっかちの運転手など、誰も求めていない。私は機械化する自分に少しづつ快感を覚えつつある。