タクシー仕事の意味と価値

私は、本職はコンサルタントである。が、10年くらい前に作った会社で(私は代表取締役副社長)とても嫌な思いをして、それ以来、個人事業主で、コンサルタントをやってきた。頭を使う集団はめんどくさい。
コンサルの Npo 法人の理事、クライアントの会社の執行役員、さらにさまざまな法人の代表をやってきた。私には、どうやら、合わないようだ。自分の会社も休眠中だが、一つ、持っている。
少し、お金が欲しくて(生活に困って)、いくつかの転職サイトに登録したり、友人に仕事の紹介を頼んだり、していた。転職サイトからはスカウトの誘いが数社あり、友人からは大手広告代理店を紹介されたりした。どうも気が乗らない。
「まったく違ったことをやってみよう」と考えた。私には、訓練が必要だ。35年もコンサルをやっていると、飽きてくる。大体のことは、経験と勘でできてしまう。本の執筆の話もいくつもあった。それをネタに食っているジジイコンサルが、山のようにいる。私は、文章のプロだからこそ、適当な本は書きたくなかった。
 
ハローワークで、高齢でもできるタクシー運転手の仕事を見つけた。なんとなく面接を受けたら、あっという間にタクシー運転手になっていた。最初の頃は、何度もやめたくなった。コンサルとしてのプライドは通用しない世界だ。客を乗せて運ぶ、そして、お金をいただく。20時間の拘束も辛かった。さらに若い傲慢な客から、罵声を浴びせられる。お前の上司は、私の教え子の可能性もある(私大手企業の社員教育を結構やっていた)。
 
続けていくうちに、コンサルとは、異なった快感を感じるようになってきた。そこで私が執行役員をやっているコンサル会社からメールが入った。まさにくだらないメールであった。人の足を引っ張ることに命を賭けている愚かな人がいる。そうゆう、金融機関のような組織、大手商社、そこから、コンサル会社に流れてきた人物が、あらぬことを流風している。今の私は、陰口は気にならない。
 
公にはしていないが、ごめん、私、タクシー運転手だから、と喉元まで出かかった。新聞社にいる時、校正室の出世拒否の共産党員の先輩から、「仕事はシンプルな方がいいんです」と言われたことが、心の底に残っている。タクシー運転手は、複雑だが、シンプルな仕事だ。誰も人の揚げ足を取って、自分が地位を欲しいとは、思っていない。たかがタクシー、でもそれなりに稼げるし、健康であれば定年はない。20時間勤務も慣れてくるとそんなに苦痛ではない。深夜にラーメンを食べることが楽しみにすらなっている。めんどくさかった納金事務もどうやら、コツを掴んだようだ。
私にとって本質的な救いになっている。運転手仲間は皆優しい。経営者も同じだ。チップでもらった数百円をお守りにしている。腹黒い運転手は、今のところ、みたことがない。コンサル会社、金融機関、役人は、腹黒さの競い合い、大手企業でもメーカー系は、比較的腹黒くない。売るものが、なんだか分からない企業ほど、腹黒さ勝負になるようだ。