いくつかの本を挙げる。
「成功哲学」ナポレオン・ヒル
「眠りながら成功する」マーフィー
「影響力の力」
「眠られぬ夜のために」ヒルティ
「完全なる人間」マズロー
その他、その他
とくにマーフィーの著書は、古本でたくさん出ている。これは、フロイトが発見した「潜在意識」という概念を「望みを叶える力」と解釈し、人間の願望は、潜在意識に植え付けることで、叶う、という、とても有名な本だ。
成功哲学の内容もほぼ同じである。強い願望、さらにはポジティブな言葉、それを真剣に現実化するという思考を徹底することで、願望が叶う、という論理。たぶん、この2冊がポジティブシンキングのベースとなっている。
一方、心理学者のマズローは、その著書「完全なる人間」のなかで、自己実現とは、何かを真剣に論じている。マズローは物質的な豊かさに重きは置かない。むしろ、物質的に満足していなくても自己実現は、完成し、具体的な例を上げて、その典型的な思考法、価値観を論理的に理解しようとする。
また、「影響力の武器」は、経済的な成功を収めるために、いかに影響力を行使するかについて、社会学的実験の元、論じている。確か、この本は、放送大学の社会心理学のテキストとしても使われている。認知行動療法も考慮されている。
「眠られぬ夜のために」は、スイスのキリスト教主義的倫理学者ヒルティーの警句集だ。神の存在を前提にして、さまざまな社会的事象を論じ、まさに「眠られぬ夜」に読むにふさわしい。
私は安易な成功哲学には、現在、疑問を持っている。もちろん、ポジティブな発想、夢が実現すると信じる心、さらには、自分の無限の可能性に対する信頼は、素晴らしい。私も若い時は、こうした成功テキストを読み、それなりに成果が上がった気がする。
ただ、私の読書歴のなかで、酒井雄哉大阿闍梨や、波止場の哲学者と呼ばれたエリック・
ホッファー、さらには、道元の弟子による「しょうほうがんぞうずいもんき」を読み、曹洞宗の修行僧と話した中で、社会的成功≒自己実現では、ないのではないか、とも思っている。
ホッファーは「波止場日記」のなかで、「歳をとって、楽しいことは、他人のものであっても美しさを感じられるようになったことだ」(意訳している)と語る。また、私に道元を読むことを勧めてくれた禅宗の修行僧(世界一周のあと、実家の寺に帰らずにお山に入って修行した)は、座禅をしていて感じることは「自分なんてたいしたことない」だという。
尾崎放哉は、小島の庵で暮らしながら、お遍路さんの施しが、春になってくることを期待しながら餓死した。
成功哲学の当たり前の論理から抜け出し、ホッファーや高木護さん、高田渡さんのような領域に達したい、と漠然と思っている。プライベートの姿をほとんど見せず、酒井雄哉大阿闍梨の言葉を胸に厳しい映画に出演し続けてなくなった高倉健さんのように何かを求め、歩き続けることが成功哲学より、重大な気がする。
もちろん、私も経済的に豊かになりたい、という本音もあるのだが。
枯れるのまだ早い、と昔の同僚に言われたが、ある部分、枯れてなお、情熱を持ち続けることができれば、マズローの「自己実現」に近づけるように思う。