非常識

6日目

大したことはないが、また、自損事故を起こしてしまった。アプリに呼び出されて、向かうと新宿百人町の狭い路地、それも目標は一方通行で入れない。なんとか、待ち合わせ場所に辿り着こうと、数本先の細い道に入った。どう考えても待ち合わせ場所に行くには右折する必要がある。右折を試みると路地で動けなくなった。何回も切り返し、これで行けるか、とバックしたところ、右側面を電柱に軽く擦った。

待ち合わせ場所から数メートル、離れた道に到達し、アプリで依頼者と連絡、そこで待機した。客は多分、歌舞伎町の女性、わずか千円弱の売り上げのために車を擦ってしまう。

その後は、比較的順調、絡まれることもなく、高井戸周辺までのロングを2本、高井戸周辺でアプリ配車もあり、その時点で、7万円弱の売り上げ、お腹が空いたので深夜0時過ぎにやっていたラーメン屋さんで、遅い夕食、その後、上野周辺を流すが、収穫はなし、帰庫することにした。

自動車を擦ると事故報告書なるものを書かされる。その前に納金作業、私はこれも極めて苦痛だ。売り上げのほとんどは、キャッシュレス、ネット決済、交通系電子マネー、クレジットカードだ。それでも現金の人もいる。全体売り上げから、現金以外の売り上げを引き、それが納金学になる。

ただ、この区分けが出鱈目だ。会社に提出する納金報告書の区分けと、納金機の区分けが異なっている。さらに会社は損しなければいいという方針なので、過小報告がなければ個別の運転手によって、報告書の分類はバラバラ、4人に聞いて、4人とも書き方、納金の方法は、異なっていた。疲れているので(それはそうだ、24時間寝ていない)単純な引き算と足し算が合わない。この日は珍しく足し算と引き算が一致した。

その前に、営業部から、罵声が聞こえる。中国訛りの日本語で、大声で会社批判を繰り返している。午前4時を回っている。ようやく足し算と引き算を終え、隣にいた男性にその後のやり方を聞くと丁寧に教えてくれる。珍しく、ピッタリあった。その先輩はハヤシと名乗ったが、先ほど、罵声をあげていた人物のようだった。私には、極めて丁寧に分かりやすく、教えてくれた。その後、午前5時くらいに営業部長が出社してきた。すると、営業部長にも怒鳴り散らしているリンさん、私は、帰宅したが、事故を起こした場合、その日のうちにビデオ(24時間録画されている)で、状況を確認する義務がある。

とりあえず帰宅して、お茶を飲み、午前8時半に再出社、営業部長とビデオ探しだ。私の記憶だと、自動車を擦った時間は明るかった。午後の早い時間だと認識していた。ただし、その時間に事故映像はない。1時間近く探した結果、午後5時過ぎの暗い時間だった。寝ずに起きていると時間感覚はずれ込む。次々、あっちこっちで営業をしていると、時間感覚は、完全に失われる。人間性の否定が前提の仕事なのだ。

売り上げは7万円弱、今のところ、7万円を目標にしている。もう少し、コツを掴めば、実限する。手取りは4万円強になる。

一方、コンサル仕事の依頼も入った。そうとう、丁寧にやっていた小田原のお金持ちから、契約延長の依頼、これはこれでありがたい。

 

歌舞伎町、新大久保周辺の女性たち、特にアプリでタクシーを呼ぶ人たちは、常識に欠落している面がある。近距離の移動で、アパートの玄関前まで、くることを平気で言ってくる。マンションの車寄せならともかくゴミゴミした住宅街の狭小アパートの玄関前など、どこにあるか、わからない。その常識がない。普段、若い女性であることをお金に変えている人たちの良くも悪くも常識の欠落だ。タクシーは、彼女たちにとって、お金を少額払えば、言いなりになる職業だと思っている。自分をその立場に置いてみて、初めてわかる人間性だ。

思いやり以前の常識の欠落、私にとって新発見だ。タクシーが最低の職業だと言われる訳の一つはこんなところにもある。

同じように初老、それもお酒が入っている男性もタチが悪い。小銭を払うことで、何を言っても許される、と思っている。説教は、まだしも、突然、怒り始める輩がいる。昔、タクシーの運転手は、タチが悪い人材が多かった。乗車拒否は当たり前、チンピラめいた運転手も存在した。その時代の記憶が、あるのだろう。今はタクシーセンターという国交省所管のタクシー監視組織が機能しており、クレームは、そこに集まる。さらに24時間、運転席を含めた四方八方が録画されている。録音もされている。タクシー会社のタクシーセンターに対する自己防衛の手段であり、営業停止や格付けダウンの防止策として機能している。

 

雑記

タクシー運転手をやってみて、食べることの重要性が明らかになった。理想は、14時くらいに立ち食い蕎麦、22時過ぎに深夜営業をしているラーメン屋さんのラーメンだ。このペースで食べると睡魔が減少する。深夜営業のラーメン屋さんも立ち食い蕎麦屋さんも、しっかり営業している。さらにそれなりに美味しい。気分を考えるとご飯ものを胃に入れるのは憚れる。身体が重くなりそうで、ゆっくり食べる気力はない。水分の補給も難しい。ベテランは、あまり水分を取らない。おしっことの関係だ。客を乗せる時は、トイレに行かれない。結果、小用が、あっても我慢する。私は、人目を避け、立ち小便をするが、できる限り、避けたい。公衆トイレがあって、自動車を止めやすい場所(青山霊園日比谷公園、私は知らないが、それ以外にもありそうだ)にタクシーが並んでいる理由が理解できた。小用兼休息には適した場所だ)。私はタバコを吸うので、コンビニでタバコを買う。ラーメンを楽しみにひたすら走る。コンビニは、小用をするのに便利で、駐車場付きのコンビニはさらにいい。ただし、都心部は、駐車場なし、トイレもないコンビニも多い。トイレと駐車場あり、コンビニを覚えておくことも重要だ。

深夜のラーメンは、ささやかな楽しみだが、その時間のロスタイムをうまく考えないと営業成績に影響する。ただ、私は、生理的欲求は、できる限り、優先する。食欲と排出欲は神様が決めたことで、意思ではどうにもならない。