7日目

 

前回の出勤で、また、自動車を擦った。新宿百人町の指定された場所は、一方通行で入れない。2本先の小道に入って、右折しようと思ったのが、大きなまちがい、細い道を右折しようとして、何度も切り返すが、どうしても抜け出せない。自動車の右側(客に見えないところ)だったので、そのまま、営業を続けた。めんどくさいから、会社にも報告しなかった。戻って、洗車専門の人にコンパウンドで擦れば、治るので、そう伝えると、それは、セキニンガイだと一蹴された。

とりあえず宿直に報告、またか、と呆れられた。ところが、しばらくして、忘れ物を撮りに行くと傷はすでに治っていた。結果、とりあえず、その日の朝8時半に会社に行き、事故報告だけはした。それは、どうやら、義務のようだ。24時間撮影しているビデオを見る。部長は、時間の特定が彼なりの義務のようだ。私は、明るかったと記憶していた。したがって、昼間のビデオばかりを見ていた。ところが、睡眠不足は、時間感覚を狂わせる。実態は暗くなった午後6時過ぎの出来事だった。これも結果的には不問だった。金額の安さと、行き先が歌舞伎町だという確かな記憶❓を頼りに部長が探し当てた。あんなバカ客にへつらうことは一切止める、と心に誓った。待ちやすい場所で待って、来なければ、相手のせいにする。

ゴーの問題点はキャンセルが多いことにある。私はいち早く、それに気づき、待ち合わせの場所がしっかりしていて、中年以上の客でない場合、待ち合わせ場所で連絡が取れるまで、迎車のボタンは押さない。回送か、

空車のままで向かう。万が一、空車待ちの客に呼び止められると、その場で迎車マークを押し、押し忘れたふりをする。

迎車料金は400円だ。ボタンを押してしまってキャンセルになるとめんどくさい後処理書類を書く必要がある。東京無線のキャンセルの場合、無線側が、後処理手続きをしてくれるので、書類も楽、ゴーの場合、責任の所在がはっきりしない。ベンチャー企業のいい加減さだ。その分、顧客対応は気軽で、誰でもゴーの会員になれる。今の時点では、ゴーが圧倒的に強く、呼び出しも圧倒的に多い。私は、個人的には東京無線に頑張って欲しいが、時代対応が遅れていることは、確かだ。

 

6日目は、無理せず、適当にわがままを通し、安全運転を心がけることにした。そこでも問題が、ゴーから、呼び出しがかかった。丁寧に待ち場所と自分の出たちを説明している。ところが、私は、手を振る中年の女性を見逃してしまい、待ち合わせ場所で待っていた。追いかけてきた女性は、怒り心頭、急いでいなければタクシーなんか呼ばない。なぜ、手を振っていた自分を見逃したのか、と問い詰める。一方、さっさとタクシーに乗り込み、某ホテルまで急げ、と急かす。こうゆう時は急いだフリをする、大先輩に教えられた。実験してみた。あえて、黄色信号にスピードを出して、突っ込む。これは、ほとんど交通違反にならない。前が空いているとアクセルを踏み込む。一応加速はするが、せいぜい100メートルの加速だ。時間は変わらない。怒っていた女性は黄色信号に突っ込んだ行為が気に入ったらしく最後は、無理言ってすまなかった、低姿勢に変貌した。

 

その後、あっちこっちを流しで回る。ホテルや病院、駅でのつけ待ちは、なんだか、嫌だ。一度だけ、東京駅でつけ待ちというより、長い列ができているのにタクシーが一台もいない事態に出くわし、そのまま乗せたことはある。つけ待ちが嫌な理由は、だらしない感じがするからだ。待ち伏せは嫌いだ。それなら、客がいてもいなくても、走っていた方が自由で、気分がいい。

 

6日目は金曜日、恵比寿では、100人近くがタクシー乗り場で並んでいる。そこに呼ばれて行ってみると、男3人、女一人が乗り込んできた。女はナースらしい。ナンパされて、次の店に誘われたようだ。場所は目黒の鷹番、この辺りが、どうやら、トレンドスポットになっているようだ。有名なのか、どうかは知らないが、芸能人が出入りする穴場的店が終夜に渡り、営業しているらしい。

 

そこで、ナンパ客をおろしてから、すぐにサラリーマン、3人組に声をかけられた。話を聞くと、噂を聞きつけ、この辺りの店に来ていたようだ。私が、トレンドを追っている時代の飯倉キャンティのような店が、何件かあるらしい。キャンティは、敷居が高く、同じビルの上にあった企画会社と契約していた関係で、一緒に行ったことがあるくらいで、そうゆう店は私の好みではない。私の好みは、裏ぶれているが、ルールのある店、中年の男が一人でカウンターで酎ハイを飲んでいるような店、あるいは、ホテルバーだ。ホテルバーでは、ウンダーベルグが、置いてある店が大前提だ。ドイツの養命酒で、とても苦いが美味しい。死んでしまった百貨店の企画部長に2年に渡って、ホテルバーの訓練をされた。葉巻の吸い方、オリジナルレシピ、ブラッディマリーとブラッディシーザーの違い、さらには、ペルツウォッカを使ったシーザー、シングルモルトのtwice upという飲み方などなど、彼が私の飲酒スタイルを決めた。

 

最後は武蔵小山まで連れて行かれ、午前も3時、帰ろうと思ったら、また、渋谷宇田川町から呼び出し、ここで乗せた女性はスタイリストだった。翌日の撮影のために準備をしていた。シラフだった。私は日本最大のファッション専門学校と大学院で、スタイリスト科の講師とファッションビジネスの講師を15年くらいやっていた。その話をうっかりしてしまった。下北沢まで、送って、営業終了、最後は、ご縁としか、思えない。私はスタイリストの先生でもあったのだ。