タクシーを辞めたい

これまで、こんな屈辱的な仕事をしたことがなかった。適当にやればいいのだが、性格的に適当にできない。たまたま、コンサル仕事で、私、原因のトラブルがあり、その反省も含めて、これまでとは違う仕事をしたくなった。そこでタクシーに辿り着いた。年齢、学歴不問、話は早く進み、2種免許を取得、タクシー運転手として、デビューした。
私は、業界紙だが、日刊紙のジャーナリストを経て、コンサル会社、企画会社部長、その後、独立、30歳代で、経営者として、それなりにやってきた。
息子、娘は、大学の附属高校へ入れ、今や典型的なホワイトカラーだ。
タクシーに乗るたびに思うことは、なんでこんな仕事をしているのだろうか?という疑問だ。客は、神様、それ以上だ。理不尽なことを言われても、理不尽な要求をされても、ただ、ひたすら、耐え、運転機械に徹することを要求される。
どう考えても、私を運転手として蔑むキャリア風女より、私の方が本質的社会地位は高い。資産も資格も家庭環境も教養も、比べても意味はないが、私の方が優っている。
それをひたすら、隠すことを強いられる。
 
タクシー会社の中でも同様、部長だの、次長だの、私と年齢が大して変わらない輩に支持命令される。本来、私が、接することのない人種だ。タクシー会社より、はるかに大きい会社のコンサルを今でもしている。対応するのは、経営者か役員だ。私の世界では、彼らは私を先生と呼ぶ。
 
この落差についていけない。タクシー会社にとっては、私は、間抜けな一運転手にすぎない。次長だか、部長だかにガードマンやったことある、と聞かれた。あるわけねえだろう、警備員は、立派な仕事だと思うが、私の人生の選択肢に上がることはなかった。
 
ただ、私とほぼ、同期の人は、私より、売上がいい。知的レベルも高そうなので、元ホワイトカラーかと思った。悪気なく、前職を聞くと倉庫の配送担当だったという。多分、それよりは、タクシーの方がいいのだろう。少なくとも稼げば稼いだだけ、手取りは上がる。
思い切って部長に辞めたい旨伝えた。すると、半年は、我慢してくれ、という。一方で、私が、ついてこられないことは、部長の想定内だったようだ。そのことは、流して、部長は、ドジばかり踏む、私を定着させたいようだ。
妻もこの仕事には、反対のようだ。昨日、食事に行った時、また、士業に戻った方がいい、と言われた。
 
夜、全く知らない道を性能の悪いゴーのナビを使って、手探りで運転する。曲がるところを一本間違えたら、迂回運転のクレームだ。この過酷な仕事が私の人生にとって、プラスに働くことを信じるしかない。もう少しだけ、やってみる。それでもダメなら、覚悟を決めて、本来の仕事に戻ることにする。